北朝鮮情勢雑感2

 南北首脳会談をきっかけに、再び北朝鮮問題が耳目を集めている。なかには、「日本外し」だとか「日本蚊帳の外」論が語られている。それ自体は必ずしも否定しないが、核問題、拉致問題を分けて、日本が外されていようがいまいが、どの辺りが日本の関与の限界かは整理する必要があると思う。

 第一に、北朝鮮核問題の交渉の主役は、米朝である。南北首脳会談で民族自決だとか言っているが、韓国はメインプレイヤーではない。単なる伝令である。(しかも、疑惑に満ちた信用ならざる伝令である)そして、日本もメインプレイヤーではない。仮に米朝ICBMの開発中止で合意し、中距離核が残されたとしても、その合意の後に日朝会談で中距離核を含む非核化が成し遂げられる事は無いであろう。なので、核問題に関しては、日本外しかどうかは関係がない。仮に、「日本外し」が無く、北朝鮮が積極的対日融和攻勢を仕掛けてきた場合、特にそれが拉致問題関連であれば、圧力一辺倒と言われ続けても制裁強化を唱え続けてきた日本すら、北朝鮮に飲み込まれかねない。だから、北朝鮮が日本との直接交渉に消極的なことが悪いとも思わない。

 では、北朝鮮非核化に向けて日本がすべきことは何か?それは、北朝鮮の融和姿勢に対して、「行動だけを評価する」という原理原則にのっとり、圧力継続を唱え続ける事である。南北首脳会談での北朝鮮の形振り構わぬ微笑外交によって、なし崩し的な制裁緩和が起こりかねない。また、完全非核化の内容も依然不透明だ。日米で協調し、中距離核も含む非核化こそが完全非核化の内容であり、それが成されるまでは制裁を継続すると言う、この原理原則を訴え続けるべきだ。核問題に関して日本がメインプレイヤーではないが、しかし日米中ロ韓が一致して制裁をすることで北朝鮮を追い詰めるという戦略的観点から見れば、各国の協調的制裁が重要であり、「日本外し」は致命的な問題ではない。しかし、完全非核化の内容や制裁継続がブレれば、今までの制裁の効果が全て無に帰する。完全非核化の内容について日米で緊密に共有し、各国制裁継続の環が破られることの無いようにせねばならない。

 一方、拉致問題に関しては、トランプが言及しようがしまいが、最終的には日朝直接交渉で解決される問題であり、北朝鮮の「日本外し」が続くようであれば、展望は見えにくい。しかし、拉致問題解決は経済協力との取引になることは確実で、この経済協力は制裁に反する。すなわち、拉致問題解決は非核化の後の話であり、雰囲気だけの南北首脳会談、非核化の内実が全く定まらない状況下で考える話ではない。

 だた、「日本外し」と言われると、すこし不安になる気持ちも理解できなくはない。しかし、北朝鮮に「交渉してください」などと頼み込む必要は無い。そこは半島国家、周りの国との関係改善をすればよい。奇しくも、日中首脳会談、習近平来日の早期実現が唱えられ、日ロ首脳会談も近く行われる。日中関係改善、日ロ関係深化が進めば、北朝鮮もチラチラ見て気にせざるを得ない。特に、北朝鮮問題について「ロシア外し」とも言われている。それならば、日ロ両国が協力して北朝鮮問題に対応することも可能だ。残念ながら、米露・欧露関係悪化によって日ロ関係の深化にも限界がある状況だが、何らかの進展を願いたい。

 

書きなぐり失敬

戦略原潜と水深の話(備忘録)

戦略原潜というのが、実際どう機能しているのかよくイメージできなかったのだが、最近おもしろい話を読んで色々調べると、結構興味深いのでまとめ。

 

核兵器搭載の戦略原潜の役割は、残存核戦力としてだ。そのため、戦略原潜は回遊し姿を潜ませている。しかし、この“潜む”に適した海域と言うと、条件があり何でも良いというわけでない。

一点目は、その海域をコントロールする事であり、それは敵の海空戦力を排除できる状態。

二点目は、“潜む=どこにいるか分からない”なので、それなりに大きく深い海域でなければならない。

 

これを米露の戦略で当てはめると、米国西海岸沖とバレンツ海(平均水深229m)、オホーツク海(平均水深838 m)のようだ。特にオホーツク海に関していえば、核抑止のための戦略原潜戦略において重要な海域であり、その制圧が千島列島・北方四島によって内海化されて容易になっていると考えれば、北方領土の重要性が浮かび上がると言える。

 

この二点から中国周辺の海域を見ると、黄海は平均水深44mで浅すぎるし、東シナ海南シナ海(フィリピン側)まで出なければ十分でない。

東シナ海(平均水深349m)における海域制圧のための拠点として尖閣諸島は重要なのだろうし、その周辺海域の制圧のためには、おそらく南シナ海の例にならい航空兵力の拠点として活用しようとするだろう。

南シナ海(平均水深1140 m)に関しては、大陸と東部のフィリピン等諸島に囲まれた内海であり、その制圧は東シナ海のような遠く南西諸島まで開かれた海域よりも容易であろう。そして、それが海南島が原潜基地である理由なのだろう。

個人的な印象では、東シナ海では日米同盟が機能するほか、南シナ海でも沿岸国は小国でもないし、国数も多く複雑なので、依然内海化するのは難しいのでないかと感じる。特に、米海軍の空母がベトナムに寄港するような状態は、この内海化の妨害に一役買っているだろう。

戦略原潜と核抑止については、「原潜 水深」で調べると結構出てくる。普段見えない海を立体的に捉えて原潜と核抑止を夢想するのは、なかなか面白い。最近、小川和久氏のメルマガを購読しているのだが、こまめな配信で軍事的知識が深まるので良い。月額1000円

 

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海底地形図(某所から失敬) 

 

注:随時訂正・加筆予定

 

アラバマ補選で何が起こったのか?(私的米国政治考その1)

先日行われたアラバマ州上院補欠選挙は、共和党候補ロイ・ムーア氏の性的スキャンダルの発覚などで、予想を裏切る民主党候補ダグ・ジョーンズ氏の勝利となった。選挙結果はすでに公表されているので、共和党民主党の得票がどう変化したかを前回大統領選と比較したい。

アラバマ州概要

2010年の国勢調査によると、全人口は4,779,736人。人種別では白人68.5%、黒人26.2%。

選挙権のある有権者数では、同様の国勢調査によれば白人70.9% 黒人26.2%であった。

(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%90%E3%83%9E%E5%B7%9E#%E4%BA%BA%E7%A8%AE%E5%8F%8A%E3%81%B3%E7%A5%96%E5%85%88)

(https://www.census.gov/library/visualizations/2016/comm/citizen_voting_age_population/cb16-tps18_alabama.html)

 

選挙結果のまとめ

ダグ・ジョーンズ民主党) 得票率49.9% 得票数671,151

×ロイ・ムーア(共和党) 48.4% 650,436

ソース:ポリティコ(https://www.politico.com/interactives/elections/2017/alabama/special-election/dec-12/)

ワシントン・ポスト紙の記事より出口調査の結果から(https://www.washingtonpost.com/graphics/2017/politics/alabama-exit-polls/?utm_term=.97318ac96291)

・人種別の投票比率でみると、白人66%、黒人29%であった。これを前述の有権者数の比率(白人70.9% 黒人26.2%で)と比べると、黒人の投票率は白人より高かったことが分かる。

・性別では、男性の総投票数に占める割合が46%で、女性が48%であった。男女別の有権者数は男性47.5%、女性52.5%である。

・人種別の投票先では、黒人の民主候補への投票率が95%以上と圧倒的で、白人の30%程度とは全く反対であることが分かる。

・ポリティコによると、郡別の得票数では全ての郡において民主候補が前回の大統領選と比べて得票率を上げた。

前回大統領選の結果

○トランプ 得票率62.9% 得票数1,306,925

×ヒラリー 34.6 718,084

 

ソース:ポリティコ(https://www.politico.com/mapdata-2016/2016-election/results/alabama/)

 

比較

・総得票数では民主候補が前回大統領選のヒラリーの得票数にほぼ匹敵する一方、共和候補はトランプの半分しか取れていない。

アラバマ州の前回大統領選の人種別などの詳細な調査結果が見当たらないので、あれば加筆・修正予定)

 

おすすめ本

 

なぜアメリカでは議会が国を仕切るのか?: 現役外交官が教える まるわかり米国政治

なぜアメリカでは議会が国を仕切るのか?: 現役外交官が教える まるわかり米国政治

 

 アメリカ議会の仕組みを知るに良い一冊。連邦議会から見たアメリカ政治が非常に簡潔に解説されている。

 

 

 

北朝鮮情勢雑感

北朝鮮は小国なので、核兵器保有したとしても国際的に容認する理由は乏しく、おそらく北朝鮮が狙うような核兵器保有の国際的容認によって自国の安全を確保した後に、経済発展させるというような中国モデルが成功する可能性は低い。となれば、仮に核兵器を持ったとしても、その見返りで得る経済的利益は何もなく、ひたすら貧しい状況が続く。また、核技術の輸出によって儲けようと企む可能性はあるが、これは中露、特に中国に対し厳しく迫り、北による核拡散が中国の国際的威信を落とすと国際的にも周知させて阻止するべきであり、これも十分可能であろう。核兵器というのは戦略兵器であっても兵器であり、その獲得が仮に成功したとしても、それより上位の階層、すなわち外交で確実に失敗させることが重要であり、それは北朝鮮を今後も外交的に国際社会から孤立させるよう制裁を強化継続する事だ。この点では、いくら北朝鮮の核開発が進展しようとも絶対に核容認はせず、また制裁を緩めることなく北朝鮮の孤立化を推し進めるべきだ。これは、その他の核開発の野心のある国に対しても、核開発を断念させることに繋がるだろう。しかし、一番の問題は現在ですら一部で囁かれる北朝鮮の核保有容認論で、これだけは何としてでも封じ込める必要がある。北朝鮮は小国なので、核容認をしてまで経済発展させるだけの理由はないし、地政学的重要性もない。

また、北朝鮮を孤立させたとしても、かつての日本のように暴発する危険性は低い。なぜなら、北朝鮮と日米韓の戦力差は圧倒的であり、第二次大戦のころの日本の一か八かの要素は全く存在しない。これほどの戦力不均衡の状態で北朝鮮が攻撃を仕掛けることはただただ自滅的だ。むしろ、孤立化は北朝鮮体制崩壊を進めることになるだろう。というのも、今後も制裁が強化され続ければ当然体制内にも不満のエネルギーは貯まるが、それが外へ向けて発散されなければ内に向かうほかないからである。この点でも、制裁強化は北朝鮮の核開発の進展の度合いに関わらず、一貫して続けられるべきだ。

一方で、北朝鮮核兵器について交渉によって部分的な核容認という路線もないわけでない。韓国のみを射程に含める朝鮮戦争のための戦術的核兵器保有は、朝鮮半島を超えた脅威になるわけでない。こうなると、韓国に対しても戦術核兵器保有容認になるだろうが、北朝鮮以外を射程に含めないようにすれば問題ない。要するに分不相応な核兵器保有が問題なのであって、仮に北朝鮮のような独裁政権でも戦術核兵器程度なら国際的な脅威ではない。ただ、この方向性で核兵器保有を容認する場合は、徹底的な査察が必要なことは言うまでもない。また、米国が北朝鮮の日本を射程内に含む中距離弾道弾も一緒に容認する可能性もあるが、これは外交で絶対に阻止するべきだし、仮に日本が対応して核保有して北朝鮮を射程に含むということは韓国や中国の一部も含むという事であり、一層事態を複雑にすることでしかない。しかし、実情として北朝鮮ICBMや中距離弾道弾の保有を自ら止める可能性は低く、今後もあらゆる方向から制裁を推し進め北朝鮮を経済的・外交的に孤立させるべきだ。ここへきて重要なのは、北朝鮮の脅威に馴れずに、その危険性を忘れないことであり、国際的に忘れさせないことだ。